最近、健康や身体の構造についてのテレビ番組も多くなり、ひと昔前に比べ、身体についての知識をお持ちの方がとても増えてきたように思います。
今回は数ある疾患のなかでも「足がしびれる」「体を反らすと痛みを感じる」「長時間の散歩ができない」などの症状が現れる「すべり症」について記事を書いていこうと思います。
この疾患は背骨を形成する骨が前後にズレることで大切な神経を圧迫してしまったり、炎症による痛みなどを発するのが特徴です、それでは記事を進めてまいります。
すべり症とはなんだろうか?
ではすべり症の説明の前に、まずは背骨の構造から確認していきましょう。背骨は一本の骨から構成されているわけではありません、椎骨(ついこつ)と呼ばれる積み木のような骨が重なり合うようにして構成されています。
若干、ややこしいですが、この椎骨は部分によって名称が異なり、脳からの電気信号を身体に伝える脊髄を境にしてお腹側の方を椎体(ついたい)と呼び、背中側の方を椎弓(ついきゅう)と呼びます。
さらに椎骨同士は椎間板と呼ばれる軟骨で結ばれ、椎弓同士は椎間関節という関節で上下が繋がっています。そしてこの椎骨の繋がりは背骨のどこに位置するかによってまた名称が異なります。
例えば首回り周辺が頚椎(けいつい)、首の付け根から腰にかけてが胸椎(きょうつい)、そして腰回りにかけてが腰椎(ようつい)そしてそれらをひっくるめて全体のことを脊椎(せきつい)と呼びます。
そして椎骨同士の繋がりが失われてしまい、上下の椎骨が前後どちらかにズレてしまう症状が今回のテーマである「すべり症」と呼ばれるものです。もちろん、これには様々な要因がありますので次章でまとめてみようと思います。
すべり症の種類
すべり症が起こる原因は様々です、先天性(生まれつき)のものもあれば加齢によって起こるものもありますし、あるいは事故やスポーツ中の接触などの衝撃が原因で起こるものもあります。
先天性のすべり症は形成不全性すべり症と呼ばれ、生まれつきの骨の成長異常によっておこるすべり症ですが、かなり稀なケースですので今回は割愛させていただき、よく起こる二種類のすべり症についてみていきましょう。
分離すべり症(ぶんりすべりしょう):
このタイプのすべり症を説明するには先ほどの構造の説明を思い出してください。椎骨は椎体と椎弓という二つの呼び名があり、椎弓同士は椎間関節でつながれているとお話しました。
この椎間関節や椎弓は身体を捩じる事があるテニス、サッカー、バスケットボールを長く続けていたり、重たいものを持つような仕事を繰り返し行うと関節が外れたり、椎弓自体が骨折したりします。このような状態を脊椎分離症、あるいは腰椎分離症と呼びます。
いままでくっついていた骨や関節が外れてしまうので、分離症を患うと腰や背中がなんだか落ち着かない、という違和感を覚えます。
その状態でさらにスポーツや仕事を続けたり、または大きな衝撃があると椎骨同士がズレて分離すべり症と呼ばれる疾患になります。この疾患の多くは腰回りに現れ、腰の骨がズレることを腰椎分離すべり症と呼びます。
変性すべり症(へんせいすべりしょう):
変性すべり症は、幅広い年代に起きるのですが、とりわけお年を召した方に多く発症し、特に男性に比べて女性の方が発症しやすいといわれています。
この理由は色々と考えれますし、中には原因がよくわからないものもあります。けれどよく言われている原因の一つは加齢によって腰や背中回りの筋肉が衰えることで背骨に負担をかけてしまうことが原因でないかといわれています。
あるいは女性に多い理由は男性に比べてホルモンの変化が激しいからだといわれています。女性ホルモンは大きくわけて2回変化します、一つは妊娠・出産をする時、もう一つは閉経する時です。
閉経すると女性ホルモンの一つであるエストロゲンが減少していき、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)を患いやすくなります。これは名前をご存知の方も多いと思いますが、骨が脆くなってしまう疾患です。詳しくはまた別の機会に触れられればと思いますが、骨が脆くなることによって椎弓が骨折しやすくなり、すべり症に発展してしまうというわけです。
すべり症の症状
すべり症は重症にならなければあまり痛くはありません。しかし長時間立っていたり、重たいものを運んだり、腰を曲げたり伸ばしたりすると痛みが現れるようになります。
けれどあまり痛くないのであれば問題ない、というわけではもちろんありません。悪化していくと他の疾患を併発する引き金になってしまいます。
その一つは例えば脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)です。脊柱管とは背中に走っている脊髄を守る管(くだ)のようなものだとイメージしてください。椎骨がズレることによって全身に脳からの電気信号を伝えている脊髄とそれを守る脊柱管を圧迫します。
そうなると、腰痛や、下半身のしびれ、または排泄を司る神経にも影響を与えて意識しない尿漏れや排尿障害などを引き起こします。
または間欠性跛行(かんけつせいはこう)と呼ばれる症状も見られ、長時間歩くことができなくなり、日常生活に支障をきたすことになります。
すべり症の予防の為に気を付ける事
このすべり症を予防する方法は、はっきりとは明らかにされていません。
例えば女性ホルモンの変化が原因といわれている変形性すべり症の場合、昨今ではホルモンをコントロールする薬などもあるのでそれを服用してみるのもいいかもしれません。
あるいは腹筋と背筋を日ごろから意識して動かすことで背中と腰回りの筋肉を鍛えるのも効果的だといわれています、しかしこれは一般的な腰痛予防と変わりませんし、運動の仕方がわからない方がいきなり行うと他の疾患を招く結果に繋がりかねません。
またご自身ですべり症になっていると早合点して、本当は違う疾患だったという場合も考えられます。ですからもしも、腰や背中に違和感を覚えたり、冒頭でもあげたような症状がみられた場合は一度、専門家に相談して一緒に対処法を検討することが望ましいと思います。
まとめ
今回は、背骨の骨が前後どちらかにズレ、その結果、様々な疾患に発展するすべり症について記事を書いてまいりました。
この疾患自体は文中でも触れた通り、あまり痛みを伴うものではありません。しかし、後々、大きな疾患を併発する引き金になる可能性は十分にあります。
歳を取っていくと、いつまでも健康で痛みのない生活をしていきたいと願う反面、身体には様々な不調が現れていくものです。もちろん健康のために食生活や運動不足を改善することはとても大切ですが、身体に違和感を覚えた時は面倒がらずに一度、専門家に相談してみると問題の早期発見・改善ができるかもしれません。